Excelの次へ:BIツールでオープンデータを読み解く入門ガイド
はじめに:Excel/Accessのその先へ
日々の業務でExcelやAccessを使って行政データの集計や簡単な分析を行っている自治体職員の皆様にとって、オープンデータの活用は新たな可能性を開く一方で、より高度な分析や複数データを組み合わせた洞察、そしてその結果の分かりやすい伝達といった課題に直面されているかもしれません。特に、地域課題は複数の要因が絡み合っていることが多く、単一のデータセットだけでは全体像を捉えきれない場合があります。
このような状況において、ExcelやAccessでは実現が難しい、複数のデータセットを動的に連携させ、対話的な(インタラクティブな)グラフやダッシュボードを作成できるツールが注目されています。それが「BIツール」(ビジネスインテリジェンスツール)です。
本記事では、ExcelやAccessの基本的なデータ操作は理解しているものの、BIツールやGISなどの専門ツールは未経験という皆様を対象に、オープンデータ活用におけるBIツールの役割、その選び方、そして基本的な活用イメージについて解説します。BIツールを導入することで、オープンデータをより深く読み解き、地域課題解決に向けた示唆を得るための一歩を踏み出せるでしょう。
BIツールとは何か、なぜオープンデータ活用に有効なのか
BIツールとは、組織内外に蓄積されたデータを収集・分析・加工し、経営判断や業務改善に役立つ情報として可視化するためのソフトウェアです。ExcelやAccessもデータ分析・可視化の機能を持っていますが、BIツールは以下のような点で優位性を持っています。
- 複数のデータソース連携: 異なる形式や場所に保管された複数のデータセット(自治体のオープンデータ、基幹システムのデータ、統計データなど)を容易に接続し、組み合わせて分析できます。
- 対話的な可視化: 作成したグラフやダッシュボード上の要素をクリックしたり、フィルターをかけたりすることで、表示されるデータを動的に変更できます。これにより、様々な角度からデータを探索し、深掘りすることが容易になります。
- ダッシュボード作成: 複数のグラフや表を一つの画面に集約し、データの全体像や重要な指標を一覧で確認できるダッシュボードを作成できます。これは分析結果を他者と共有する際に非常に有効です。
- 定型レポートの自動化: 一度設定すれば、最新のデータに基づいて自動的にレポートやダッシュボードを更新できます。
オープンデータを地域課題解決に活用する際、例えば「高齢化率データ」「公共交通機関の利用状況データ」「医療機関・福祉施設の所在地データ」などを組み合わせて分析し、高齢者のアクセス困難地域を特定するといった作業が必要になります。このような、複数のデータセットを連携させた高度な分析や、分析結果を分かりやすく共有するための可視化において、BIツールはその真価を発揮します。
BIツールの種類と選び方のポイント
BIツールには様々な種類があり、機能、価格、操作性などが異なります。自治体でのオープンデータ活用を始めるにあたって、どのようなツールを選ぶべきか、いくつかのポイントをご紹介します。
- 利用形態:クラウド型かオンプレミス型か
- クラウド型: インターネット経由でサービスを利用します。初期導入の負担が少なく、場所を選ばずにアクセスできる利点がありますが、データの取り扱いに関するセキュリティポリシーを確認する必要があります。
- オンプレミス型: 自治体内のサーバーにソフトウェアをインストールして利用します。セキュリティ面での安心感はありますが、導入・運用に専門知識やコストがかかる場合があります。オープンデータ活用においては、比較的柔軟なクラウド型が導入しやすいケースもあります。
- 機能:必要な可視化・分析機能は何か
- 基本的なグラフ作成、テーブル表示、フィルター機能は多くのツールに備わっていますが、地図連携(GIS機能)、予測分析、AI連携など、高度な機能が必要か検討します。オープンデータ活用では、地域情報を扱うため地図連携機能があると非常に便利です。
- 操作性:ペルソナのスキルレベルに合っているか
- ドラッグ&ドロップで直感的に操作できるか、データ接続や前処理(データの整形、結合など)が容易に行えるかを確認します。多くのBIツールはプログラミング知識がなくても操作できますが、ツールによって習得コストは異なります。無料トライアルなどを活用して、実際に操作感を試すことをお勧めします。
- 価格体系:予算に合っているか
- ユーザー数に応じた課金、機能によるエディション分けなど、様々な価格体系があります。まずは無料版やトライアル版、オープンソースのツールから試してみるのが良いでしょう。代表的なツールとしては、商用ではTableau、Power BI、Lookerなどがあり、オープンソースではMetabase、Redashなどがあります。特にTableau PublicやPower BI Desktopの無料版は、個人利用や小規模な試行において強力な選択肢となります。
BIツールを使ったオープンデータ可視化の基本的な流れ
BIツールを使ってオープンデータを可視化し、地域課題解決に役立てるための基本的なステップを見ていきましょう。
- データソースへの接続:
- 自治体ポータルや国の統計サイトなどから必要なオープンデータをダウンロードします(CSV, Excel, JSON形式など)。
- BIツールを起動し、ダウンロードしたデータファイルを選択して接続します。必要に応じて、データベースや他のシステムと連携させることも可能です。
- データの前処理と整形:
- データがBIツールに取り込まれたら、分析しやすい形に整形します。例えば、列名の変更、不要な列の削除、データの型の変換(数値、日付など)を行います。
- 複数のデータセットを組み合わせる場合は、共通するキー(例:市区町村コード、日付、地域名など)を使ってデータを結合(リレーションシップの設定)します。BIツールはドラッグ&ドロップなどで簡単に結合を設定できるものが多いです。
- データの可視化:
- 整形されたデータを使って、目的に合ったグラフや表を作成します。BIツールは様々なグラフタイプ(棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、散布図、地図グラフなど)を提供しています。
- 例えば、人口推移を折れ線グラフで、地域別の高齢者割合を地図グラフで、産業別の事業所数を棒グラフで表示するといった形です。
- ダッシュボードの作成:
- 作成した複数のグラフや表を一つのキャンバスに配置し、インタラクティブなダッシュボードを作成します。
- フィルターやパラメータを設定することで、ユーザーが地域を選択したり、期間を指定したりして、表示されるデータを動的に切り替えられるようにします。これにより、データ探索の幅が広がります。
- 共有と活用:
- 作成したダッシュボードを関係者と共有します。クラウド型のBIツールであれば、Webブラウザ経由でアクセスできる場合が多いです。
- ダッシュボードを見ながら議論し、データに基づいた地域課題の分析や施策立案に活用します。
地域課題解決への応用例
BIツールを活用することで、どのような地域課題にアプローチできるでしょうか。いくつかの応用例をご紹介します。
- 防災計画の策定支援: ハザードマップデータ、人口データ、避難所データを組み合わせ、災害リスクの高い地域にある避難要配慮者の数を特定し、避難計画の優先順位付けや避難ルートの検討に役立てる。BIツールの地図機能を使えば、これらの情報を視覚的に重ね合わせて表示できます。
- 高齢者福祉施策の見直し: 高齢化率、公共交通機関の運行データ、医療・福祉施設の所在地データ、地域住民のアンケート結果などを統合し、高齢者の日常生活における移動やサービス利用の課題を可視化する。特定の地域に焦点を当てて、サービスが不足しているエリアを特定することが可能です。
- 地域活性化施策の評価: 観光客数データ、イベント開催データ、地域内消費データ、SNS上の口コミデータなどを時系列で分析し、特定のイベントや施策が地域経済や交流人口に与えた影響を定量的に評価する。複数の指標を一つのダッシュボードで監視することで、施策の効果測定が容易になります。
これらの例は、複数のオープンデータや内部データを組み合わせ、それを分かりやすく可視化することで初めて見えてくる洞察です。BIツールは、このような複雑なデータを扱う際に強力な味方となります。
まとめ:BIツール導入の次なる一歩
ExcelやAccessでのデータ集計・分析に慣れている皆様にとって、BIツールは一見難しそうに感じられるかもしれません。しかし、多くのBIツールは直感的な操作性を備えており、基本的な機能を習得すれば、オープンデータの活用範囲を格段に広げることができます。
BIツールを導入することで、データの探索がより自由になり、複数の情報を組み合わせた深い分析が可能になります。そして、その分析結果をインタラクティブで分かりやすいダッシュボードとして共有することで、関係者間でのデータに基づいた合意形成や議論を促進することができます。
まずは、無料版やトライアル版が提供されているBIツールを試してみることから始めてはいかがでしょうか。少量のオープンデータを使って実際に手を動かしてみることで、BIツールの可能性を実感できるはずです。地域課題解決に向けたデータ活用のステップとして、BIツールは間違いなく有効な選択肢の一つとなるでしょう。