オープンデータ活用ガイドブック

地域データから未来の兆しを読む:オープンデータ活用のための傾向分析と簡単な予測入門

Tags: オープンデータ, データ分析, 傾向分析, 将来予測, 地域課題, 時系列データ

自治体職員の皆様にとって、地域の現状把握はもちろん、将来の変化を予測し、適切な施策を計画することは極めて重要です。人口構造の変化、高齢化の進展、産業構造の転換、交通需要の変動など、様々な要因が地域の未来に影響を与えます。これらの変化を的確に捉えるためには、過去から現在までのデータに基づいた「傾向分析」が有効な手段となります。

ExcelやAccessで日常的にデータを扱っている皆様の中には、「過去のデータから将来の動向を予測したいが、どうすれば良いのか分からない」「オープンデータを使えばもっと高度な分析ができるのか」といった課題をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、オープンデータを活用して地域データの傾向を分析し、将来の変化を読み解くための基本的な考え方と、比較的取り組みやすい方法について解説します。

傾向分析とは何か? なぜオープンデータが役立つのか

傾向分析とは、過去から現在にかけてのデータがどのように変化してきたかを調べ、そのデータが持つパターンや方向性を把握することです。例えば、人口の増減、特定の施設の利用者数、犯罪発生件数、公共交通の乗降客数などが時間の経過とともにどのように推移しているかを見ることで、その裏にある社会的な動きや構造的な変化を捉えることができます。

オープンデータは、このような傾向分析を行う上で非常に強力なデータソースとなります。国や自治体が公開している統計データ、交通情報、気象データ、イベント情報など、様々な分野の時系列データが利用可能です。これらの多様なオープンデータを組み合わせることで、一つのデータからは見えなかった複合的な傾向や、特定の現象に影響を与えている要因の関連性が見えてくる可能性があります。

例えば、観光客数のデータだけを見ているだけでは分からなかった季節変動や特定のイベント開催時の急増といった傾向が、気象データやイベント情報データと照らし合わせることで、より明確に理解できるようになります。

オープンデータを使った傾向分析と簡単な予測のステップ

オープンデータを使った傾向分析と、それに基づいた簡単な将来予測を行うための基本的なステップをご紹介します。

ステップ1: 分析目的と適切なデータの選定

まずは、どのような地域の変化を予測したいのか、分析の目的を明確にすることから始めます。「将来の高齢者人口の増加率を知りたい」「特定の路線の公共交通利用者が今後どう変化するか予測したい」といった具体的な問いを設定します。

目的が定まったら、その分析に必要なオープンデータを収集します。傾向分析や将来予測には、時間の経過とともに値が変化する「時系列データ」が必須です。以下のようなデータが候補となります。

これらのデータは、各自治体のオープンデータポータルサイトや、国の統計局、各府省のウェブサイトなどで公開されています。必要な期間のデータが入手可能か確認します。

ステップ2: データの前処理と整理

入手したデータは、そのままでは分析に使えないことがよくあります。データの形式を統一し、分析しやすい形に整える「前処理」が必要です。

これらの作業はExcelでも行うことができますが、データ量が多い場合や複雑な処理が必要な場合は、より専門的なツール(Access、あるいは今後のステップアップとしてPythonやRといったプログラミング言語)の利用も視野に入れると良いでしょう。

ステップ3: 傾向の把握と可視化

データを分析可能な形に整えたら、まずはデータの傾向を目で見て理解することが重要です。時系列データの可視化には「折れ線グラフ」が最も一般的で効果的です。

Excelで、X軸に時間(年、月など)、Y軸に分析対象の値を設定して折れ線グラフを作成します。これにより、値が増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか、あるいは周期的な変動があるのかなどを直感的に把握できます。

より詳細な傾向を把握するために、「移動平均線」をグラフに追加することも有効です。移動平均線は、特定の期間(例えば3ヶ月や1年)の平均値をプロットした線で、データの短期的な変動(ノイズ)を平滑化し、長期的なトレンドを見やすくする効果があります。Excelのグラフ機能で移動平均線を追加することができます。

ステップ4: 簡単な予測の手法(入門)

傾向分析でデータのパターンを把握できたら、その傾向が今後も続くと仮定して、簡単な将来予測を試みることができます。最も基本的な方法は、過去のトレンドを延長するという考え方です。

例えば、人口が過去数年間にわたってほぼ一定の割合で減少している場合、その減少率が今後も続くと仮定して将来の人口を計算するといった方法です。Excelの「トレンド」関数や、散布図にトレンドラインを追加して将来の値を予測する機能なども、線形や指数といった単純なモデルに基づく予測に利用できます。

ただし、この方法はあくまで過去の傾向がそのまま将来に引き継がれるという単純な仮定に基づいています。社会や経済は常に変化しており、外部要因の影響を受けるため、この方法による予測はあくまで「もしこのままのペースで変化したら」という参考値として捉える必要があります。

より精緻な予測を行うためには、回帰分析や様々な時系列分析モデル(ARIMAモデルなど)といった統計学的な手法がありますが、これらは専門的な知識やツール(統計ソフト、プログラミング言語)が必要となるため、本記事では入門として、まずは簡単な傾向把握と直線的な延長の考え方に触れるに留めます。

地域課題解決への応用例

オープンデータの傾向分析や簡単な予測は、様々な地域課題の解決に役立てることができます。

これらの応用例では、単一のデータセットだけでなく、複数のオープンデータを組み合わせることで、より深い洞察と将来の見通しが得られる可能性が高まります。

傾向分析・予測における注意点

オープンデータを使った傾向分析や簡単な予測は有用ですが、いくつかの注意点があります。

まとめ

オープンデータは、地域の現状を「見える化」するだけでなく、過去からの変化の傾向を分析し、将来の動向を予測するための貴重な情報源となります。完璧な将来予測は難しいとしても、データに基づいた傾向分析を行うことで、勘や経験だけでなく、より客観的な根拠に基づいた施策の検討や、変化への早期対応が可能になります。

まずは、ご自身の業務に関連する時系列のオープンデータを一つ選び、Excelなどでデータを整理し、折れ線グラフを作成して傾向を観察することから始めてみてはいかがでしょうか。簡単な移動平均線を追加したり、関連しそうな別のオープンデータと重ねてみたりするだけでも、新たな発見があるかもしれません。

この記事が、皆様のオープンデータ活用による地域課題解決の一助となれば幸いです。