オープンデータ活用ガイドブック

地域課題「高齢化」に挑む:オープンデータ探索・連携・分析の実践ステップ

Tags: 高齢化, 地域課題, オープンデータ, データ分析, データ連携, 可視化, 実践ガイド

はじめに

多くの地方自治体で、高齢化は避けて通れない重要な地域課題となっています。高齢者人口の増加に伴い、医療、介護、交通、買い物、地域での孤立防止など、多岐にわたる行政サービスの提供や地域づくりが求められています。これらの課題に対して、勘や経験だけでなく、客観的なデータに基づいた政策立案や事業評価が不可欠です。

皆様の中には、日常的にExcelやAccessを使って住民データや事業の統計データを集計・分析されている方も多いかと存じます。しかし、高齢化のような複合的な課題を深く理解し、効果的な対策を講じるためには、部署を超えた行政内のデータだけでなく、様々な主体が公開しているオープンデータを組み合わせ、多角的な視点から分析することが有効です。

本記事では、地域課題の典型例である「高齢化」を取り上げ、この課題にオープンデータをどのように活用できるのか、データの探索から取得、複数データの連携、そして分析・可視化までの実践的なステップを具体的に解説いたします。基本的なデータ操作スキルをお持ちの皆様が、オープンデータを活用して一歩進んだ分析に取り組むための実践的なガイドとしてご活用いただければ幸いです。

ステップ1:課題の明確化と必要なデータの特定・探索

オープンデータ活用を始めるにあたり、まず解決したい地域課題における具体的な問いを明確にすることが重要です。「高齢化対策」という漠然とした課題ではなく、「公共交通が不便な地域に住む高齢者の割合を知りたい」「一人暮らし高齢者の見守り体制を検討するために、要支援・要介護認定者以外の高齢者で支援が必要な可能性のある層を把握したい」「高齢者の買い物難民リスクが高い地域を特定したい」といった具体的な問いを設定します。

次に、これらの問いに答えるためにどのようなデータが必要かを考えます。例えば、「公共交通が不便な地域に住む高齢者の割合」を知るためには、以下のようなデータが考えられます。

必要なデータの種類が特定できたら、いよいよオープンデータを探索します。データの主な探索先としては、以下のものが挙げられます。

これらの情報源を巡回し、設定した課題に関連するデータセットを探します。データの更新頻度、地域カバー率(どこまで詳細な地域区分か)、データ形式(CSV, Excel, Shapefileなど)を確認しながら、目的に合ったデータを選定することが探索のポイントです。

ステップ2:必要なデータの取得と前処理

利用したいオープンデータが見つかったら、データをダウンロードします。データ形式はCSVやExcelが多いですが、地図情報を含むデータの場合はShapefileなどの地理情報システム(GIS)で扱える形式であることもあります。

ダウンロードしたデータは、そのままでは分析に使いにくい場合がほとんどです。以下のような前処理が必要になることがあります。

ペルソナの皆様はExcelやAccessでのデータ処理経験をお持ちですので、CSVやExcelデータの基本的な整形はこれらのツールで行うことが可能です。住所情報の正規化には、専用のツールやプログラミングが必要になる場合もありますが、まずはExcelの関数やAccessのクエリで可能な範囲から取り組むことをお勧めします。前処理の質が、その後の分析結果に大きく影響することを理解しておくことが重要です。(オープンデータの前処理については、「複数データ連携の成否は前処理で決まる:オープンデータクリーニング実践ガイド」もご参照ください。)

ステップ3:複数データの連携と統合

高齢化のような複合的な課題を分析するには、複数のオープンデータを組み合わせることが不可欠です。例えば、高齢者人口データと公共交通網データを組み合わせて分析する場合、共通のキー(識別子)を使ってデータを結びつける必要があります。よく使われるキーは、地域コード(市区町村コード、町丁・字等コードなど)や住所情報です。

データ連携の基本的な考え方は、リレーショナルデータベースにおけるテーブルの結合や、ExcelにおけるVLOOKUP関数による参照に似ています。

データ連携の手法は、使用するツールやデータ形式によって異なります。ExcelやAccessでもある程度のデータ連携は可能ですが、より複雑な連携や大規模なデータを扱う場合は、専用のデータ統合ツールやBIツール、あるいはPythonやRといったプログラミング言語の活用が有効です。これらの専門ツールについては、その概念を知っておくだけでも、将来的な活用の可能性が広がります。(データの連携手法については、「データ連携で地域課題を読み解く:複数のオープンデータを組み合わせる実践ガイド」もご参照ください。)

ステップ4:連携データの分析と解釈

複数のオープンデータを連携・統合したデータセットを使って、具体的な分析を行います。高齢化課題に関する分析の例としては、以下のようなものが考えられます。

これらの分析は、Excelのピボットテーブルによる集計、Accessのクロス集計クエリ、グラフ作成など、基本的なデータ分析機能でも一定レベルまでは可能です。さらに踏み込んだ分析を行う場合は、より高度な統計機能を持つツールや、地理空間分析が可能なGISツールの活用を検討します。

分析で得られた数値や傾向は、そのままでは単なるデータです。そこから「〇〇地域では、公共交通が不便なエリアに高齢者が集中しており、買い物難民リスクが高いと考えられる」といった、地域課題の現状や原因、対策の方向性を示唆する「知見」を引き出すことが、分析の最も重要なステップです。なぜそのような傾向が見られるのか、背景にある要因は何かを考察し、データに基づいた具体的な課題設定や施策検討につなげていきます。

ステップ5:分析結果の可視化と共有

どんなに優れた分析結果も、関係者に「伝わる」形になっていなければ、政策決定や地域での具体的な活動にはつながりません。分析結果を分かりやすく可視化し、共有することが最後の重要なステップです。

高齢化課題に関する分析結果の可視化には、以下のような方法があります。

可視化する際は、対象となる読者が誰か(議会関係者、地域住民、他部署職員など)を意識し、専門用語を避け、凡例や説明文を分かりやすく丁寧に記述することが大切です。分析の背景、目的、得られた知見、そしてそれが示唆する政策的な含意をストーリーとして伝えることで、データが持つ力を最大限に引き出すことができます。(分析結果の伝え方については、「分析結果を「伝わる」形に:オープンデータ活用のためのストーリーテリング入門」もご参照ください。)

まとめ

本記事では、地域課題である高齢化を例に、オープンデータを活用した問題解決に向けた実践的なステップを解説しました。データ探索から始め、複数のデータを連携させ、分析し、そして結果を分かりやすく可視化する一連のプロセスは、高齢化に限らず、子育て、防災、地域経済活性化など、様々な地域課題に応用可能です。

最初から高度な分析や最新ツールを使いこなす必要はありません。まずは身近なオープンデータと、日頃お使いのExcelやAccessを使って、小さな課題からデータ活用を始めてみることが重要です。他の自治体の事例を参考にしたり、公開されている分析結果や可視化事例を参考にしたりしながら、一歩ずつ取り組んでみてください。

オープンデータは、地域課題解決のための強力なツールとなり得ます。データの力を理解し、活用するスキルを身につけることで、より根拠に基づいた、効果的な地域づくりに貢献できると信じています。このガイドが、皆様のオープンデータ活用の一助となれば幸いです。