オープンデータ活用ガイドブック

オープンデータを活用した自治体事業の効果測定:指標設定からデータ分析まで

Tags: 効果測定, 事業評価, データ分析, 自治体, オープンデータ活用

はじめに:事業の効果測定、データでどのように行いますか?

自治体における事業の企画・実施において、その効果をどのように測定し、評価するかは重要な課題です。これまでの経験や勘に頼ることも多いかもしれませんが、限られたリソースを最大限に活かすためには、データに基づいた客観的な効果測定が不可欠です。特に、オープンデータは、事業を取り巻く社会状況や地域環境の変化を捉えるための貴重な情報源となります。

このガイドでは、自治体職員の皆様が、オープンデータを活用して事業の効果を測定するための具体的なステップを、指標設定からデータ分析まで解説します。ExcelやAccessでのデータ経験をお持ちの方を対象に、一歩進んだデータ活用方法として、オープンデータの導入と応用方法をご紹介します。

効果測定の基本的な考え方とオープンデータの役割

事業の効果測定とは、実施した事業が当初の目的をどの程度達成できたか、あるいは意図しない影響を与えていないかなどを、客観的なデータに基づいて評価することです。これにより、事業の改善点を見つけたり、次年度以降の事業計画に活かしたりすることが可能になります。

効果測定を行う上で、オープンデータは以下のような役割を果たします。

事業の内部データ(参加者数、コスト、サービス利用状況など)だけでは見えにくい、事業が地域全体に与える影響や、事業が外部環境の変化の中でどのように位置づけられるかを理解するために、オープンデータの活用は有効です。

効果測定指標の設定

効果測定の最初のステップは、何を測るか、すなわち「指標(メトリクス)」を設定することです。効果測定指標は、事業の目的と密接に関連している必要があります。事業の目的に対して、どのようなデータがその達成度を示すのかを具体的に考えます。

例えば、「高齢者の社会参加促進事業」であれば、以下のような指標が考えられます。

このように、事業の直接的な成果(アウトプット)だけでなく、それが地域にどのような変化をもたらしたか(アウトカム)を捉える指標を設定することが重要です。そして、特にアウトカム指標において、オープンデータが有力なデータソースとなり得ます。

オープンデータの探索と取得

設定した指標に関連するオープンデータを探します。

  1. 自治体のオープンデータカタログサイト: まずは自身の自治体や近隣自治体が公開しているデータを確認します。事業に関連する分野(福祉、健康、防災、産業、観光など)の統計データや、施設利用状況、イベント開催情報などが役立つ場合があります。
  2. 国の統計データ: 国勢調査、社会生活基本調査、経済センサスなど、地域レベルの細かい統計データが多く公開されています。政府統計の総合窓口(e-Stat)などを活用します。これらのデータは、地域の特性を把握したり、全国や都道府県の平均値と比較したりする際に非常に有効です。
  3. その他公共データの公開サイト: 研究機関や特定の公共団体が公開しているデータも存在します。

データの探索時には、以下の点に注意します。

必要なデータが見つかったら、ダウンロードまたはAPI経由でデータを取得します。多くのオープンデータはCSV形式で提供されており、ExcelやAccessで直接開くことができます。

内部データとオープンデータの連携・前処理

効果測定には、事業の実施状況を示す内部データと、外部環境やアウトカムを示すオープンデータを組み合わせて分析することが不可欠です。

データを連携させるためには、共通の「キー」となる項目が必要です。例えば、地理的な分析であれば「町丁目コード」や「緯度経度」、時系列分析であれば「日付」などがキーとなります。

データの連携・前処理のステップは以下のようになります。

  1. データの確認: 取得したオープンデータと内部データの構造(列名、データ型など)を確認します。
  2. データのクリーニング: 欠損値、誤入力、表記のばらつきなどを修正します。例えば、同じ地域でも「〇〇町」と「〇〇町」のように表記揺れがある場合は統一します。ExcelのVLOOKUP関数や、より高度なツール(Accessのリレーションシップ、あるいはPythonなどのプログラミング言語)を使ってデータを結合する前に、データの「名寄せ」や「正規化」を行います。
  3. データの結合: 共通のキー項目を使って、内部データとオープンデータを結合します。ExcelではVLOOKUP関数やPower Query、Accessではクエリ機能を使って行います。データ量が多かったり、複雑な結合が必要な場合は、より専門的なデータベースツールや分析ツールが必要になる場合もありますが、基本的な結合はExcelやAccessでも十分可能です。
  4. 必要なデータの抽出・整形: 分析に必要な列のみを抽出し、計算が必要な新しい列(例: 事業参加率、対人口比など)を作成します。

この前処理の段階は、分析の精度を大きく左右します。丁寧なデータ確認とクリーニングが重要です。

データ分析と効果の評価

前処理が完了したデータを基に、事業効果の分析を行います。ExcelやAccessで可能な基本的な分析手法としては、以下のようなものがあります。

より高度な分析としては、回帰分析や差の差分析などがありますが、これらは統計ソフトウェアやプログラミングの知識が必要となるため、まずは基本的な比較や傾向分析から始めることをお勧めします。

分析結果を評価する際には、以下の点を考慮します。

分析結果の可視化と報告

分析結果は、関係者が容易に理解できるように分かりやすく可視化することが重要です。Excelのグラフ機能や、PowerPointなどで図を作成することで、データの傾向や比較結果を視覚的に伝えることができます。

報告書や会議資料に分析結果をまとめる際は、単にグラフを貼るだけでなく、「データから何が読み取れるか」「それは事業の目的達成にどう関係するか」「今後の事業改善にどう活かせるか」といったストーリーを加えて説明することが、データ活用の価値を高めます。

まとめ:効果測定を次の改善につなげる

オープンデータを活用した効果測定は、自治体事業をデータに基づいて客観的に評価し、改善につなげるための強力な手法です。

効果測定は一度行えば終わりではなく、事業を継続・改善していく上で定期的に行うプロセスです。オープンデータは常に更新され、新しいデータも公開されます。継続的なデータ収集と分析の体制を構築することが、より効果的な事業運営への道を開きます。

まずは一つの事業を選び、利用可能なオープンデータを探すことから始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、データに基づく政策立案・評価の大きな進歩につながります。