オープンデータ活用ガイドブック

データで根拠を示す:オープンデータ活用による政策立案・評価の実践

Tags: オープンデータ, EBPM, 政策立案, 政策評価, データ活用

はじめに:データに基づいた政策決定(EBPM)への期待

近年、自治体行政において「データに基づいた政策決定(Evidence-Based Policy Making: EBPM)」の重要性が増しています。限られた資源を最大限に活かし、より効果的で根拠のある施策を展開するためには、客観的なデータ分析が不可欠です。しかし、日々の業務の中で蓄積される内部データに加え、膨大かつ多様なオープンデータをどのように政策立案や評価に結びつければ良いのか、具体的な手法や進め方に課題を感じている自治体職員の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、オープンデータがEBPMにもたらす可能性に焦点を当て、政策立案から評価に至るプロセスでオープンデータをどのように活用できるのか、具体的なステップや実践のヒント、そして事例について解説します。

オープンデータがEBPMにもたらす可能性

オープンデータとは、国や自治体、研究機関などが保有する公共データを、誰でも自由に利用・再配布できる形で公開したものです。EBPMにおいて、オープンデータは以下のような可能性を秘めています。

自治体が公開する統計情報はもちろん、国の統計データ(e-Statなど)、地理空間情報(G空間情報センターなど)、交通データ、医療・福祉関連データなど、政策に関連しうるオープンデータは多岐にわたります。

政策立案プロセスにおけるオープンデータ活用

オープンデータを活用して政策立案を進めるための一般的なステップと、それぞれの段階でのオープンデータの役割を説明します。

  1. 課題の明確化とデータニーズの特定:

    • 解決したい地域課題を具体的に定義します。例:高齢者の孤立、若年層の転出抑制、地域経済の活性化など。
    • その課題の現状把握や原因分析に必要なデータは何かを検討します。オープンデータポータルサイトなどを活用し、どのような関連データが公開されているか探索します。
  2. 関連データの収集と統合:

    • 特定したオープンデータを収集します。CSVやExcel形式で提供されていることが多いですが、APIで提供されているデータもあります。
    • 必要に応じて、収集したオープンデータと自治体の内部データ(住民情報、事業実施データなど、プライバシーに配慮したもの)を組み合わせます。データの形式や定義が異なる場合(例:町丁目の名称が少し違う、年齢区分が異なるなど)、後述するデータ前処理が重要になります。複数のデータを組み合わせることで、より詳細な分析が可能になります。
  3. データ分析による現状把握と原因分析:

    • 収集・統合したデータを用いて、課題の現状を定量的に把握します。
    • さらに、複数のデータの関連性を分析し、課題の背景にある要因を探ります。例えば、若年層の転出抑制が課題であれば、転出元・転出先のデータに加え、雇用、住宅、子育て環境などのオープンデータと突き合わせることで、どのような要素が転出に影響しているかの仮説を立てられます。
    • Excelの基本的な集計・分析機能に加え、より複雑な分析には、BIツール(Power BI、Tableauなど)や、統計分析ソフトウェア、プログラミング言語(Python, Rなど)の利用が有効な場合があります。導入のハードルが高いと感じるかもしれませんが、まずは概念を理解し、小規模な分析から試すことが重要です。
  4. 分析結果の解釈と政策オプションの検討:

    • 分析結果から得られた示唆を丁寧に解釈します。データが「何を示しているのか」「どのような課題の構造が読み取れるのか」を深く考察します。
    • 分析結果に基づき、課題解決に向けた複数の政策オプションを検討します。データによって裏付けられた根拠をもって、それぞれのオプションの実現可能性や期待される効果を議論できます。

政策評価プロセスにおけるオープンデータ活用

政策評価においても、オープンデータは重要な役割を果たします。

  1. 評価指標の設定:
    • 政策の目標達成度を測るための具体的な評価指標を定めます。この指標は、可能な限りオープンデータや内部データで定量的に測定できるものが望ましいです。例えば、「高齢者の外出頻度向上」という目標に対して、「特定の地域における高齢者のバス・鉄道利用者の増加率」を指標とするなどです(もし交通系のオープンデータがあれば)。
  2. 政策実行前後のデータ比較:
    • 政策実施期間中または実施前後のデータを比較し、指標がどのように変化したかを分析します。オープンデータを用いることで、政策対象だけでなく、地域全体の動向や他の要因(景気変動など)の影響も考慮した評価が可能になります。
  3. 分析結果の可視化と伝達:
    • 評価結果を分かりやすく可視化し、関係者や市民に伝達します。グラフ(棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフなど)はもちろん、地図情報と組み合わせたGISによる可視化は、地域の状況や変化を直感的に理解するのに非常に有効です。BIツールのダッシュボード機能も、複数の評価指標を一覧で把握するのに役立ちます。政策の効果をデータで「見える化」し、根拠をもって説明することが、次の政策改善につながります。

実践のためのヒントとツール

事例紹介:オープンデータを活用した地域課題分析(架空事例)

ある都市では、特定の地域で空き家が増加していることが課題となっていました。この課題に対して、以下のようなオープンデータを活用した分析を行いました。

この事例は架空のものですが、このように複数のオープンデータを組み合わせ、空間情報と結びつけて分析することで、課題の構造を深く理解し、データに基づいた具体的な政策検討を進めることが可能です。

結論:EBPM推進に向けたオープンデータ活用の第一歩

オープンデータを活用したEBPMは、地域課題の解決や行政サービスの向上に不可欠な取り組みです。データの収集・統合、分析、可視化といった一連のプロセスは、これまでExcelやAccessでデータ集計を行ってきた自治体職員の方々にとっても、決して越えられないハードルではありません。

まずは、関心のある地域課題に関連するオープンデータを探索し、小さな分析から始めてみてください。データ分析ツールや可視化ツールの使い方を学ぶとともに、他の自治体の先進事例を参考にすることで、オープンデータ活用の幅は大きく広がります。

データに基づいた政策決定は、より効果的で透明性の高い行政運営を実現するための強力な手段です。本記事が、皆様がオープンデータをEBPMに活用するための一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。