オープンデータ活用ガイドブック

複数データ連携の成否は前処理で決まる:オープンデータクリーニング実践ガイド

Tags: データ前処理, データクリーニング, データ連携, オープンデータ活用, 自治体

はじめに

地域課題の解決に向け、様々な行政データやオープンデータを組み合わせて分析・活用したいとお考えの自治体職員の方も多いのではないでしょうか。しかし、複数のデータセットを連携させようとした際、「データ形式がバラバラで結合できない」「同じ項目なのに表記が違う」「欠損値が多くて集計できない」といった壁に直面することは少なくありません。

これらの問題は、データ分析の前に必ず行うべき「データ前処理(データクリーニング)」の不足に起因することがほとんどです。データ前処理は、分析基盤を整えるための地道ながらも最も重要なステップであり、ここをおろそかにすると、どんな高度な分析ツールを使っても期待する結果は得られません。

本記事では、オープンデータを効果的に活用し、複数データ連携を成功させるために不可欠なデータ前処理の重要性とその具体的な実践方法について解説します。ExcelやAccessでのデータ操作経験がある読者を想定し、一歩進んだ前処理の考え方や、手軽に導入できるツールの活用についても触れていきます。

データ前処理(クリーニング)とは何か、なぜ重要か

データ前処理とは、収集した生データを分析に適した形式に変換するためのあらゆる作業を指します。具体的には、データの誤りや不備を修正したり、形式を統一したり、不要なデータを取り除いたりする工程です。データクリーニングとも呼ばれます。

なぜデータ前処理が重要なのでしょうか。その理由は主に以下の通りです。

  1. 分析結果の信頼性を高める: 不正確なデータに基づいて分析を行うと、誤った結論を導き出してしまいます。前処理によってデータの質を高めることは、分析結果の信頼性を確保する上で不可欠です。
  2. 複数データ連携を可能にする: 異なるソースのデータを連携させるためには、データの形式や項目名を統一する必要があります。前処理はこの「つなぎ合わせる」ための準備作業です。
  3. 分析効率を向上させる: きれいに整えられたデータは、その後の分析作業をスムーズに進め、時間の短縮につながります。

特にオープンデータは、提供元や作成時期によって形式や粒度が異なることが多く、そのままでは分析に使いにくいケースが散見されます。したがって、オープンデータを活用する際には、他のデータと組み合わせて使う場合であれ、単独で使う場合であれ、適切な前処理が必須となります。

オープンデータに多い前処理の課題と対策

オープンデータ特有の前処理に関する課題と、それに対する一般的な対策をご紹介します。

複数データ連携のための前処理実践ステップ

地域課題解決のために複数のオープンデータを連携させる場合、特に重要となる前処理のステップを具体的に見ていきましょう。

ステップ1:連携の「鍵」となる項目(キー項目)を特定・確認する

複数のデータセットを結合するためには、共通する項目が必要です。これを「キー項目」と呼びます。例えば、「市区町村名」「地域コード」「施設ID」などがキー項目となり得ます。

ステップ2:キー項目の表記を統一する

特定したキー項目の表記ゆれを解消し、完全に一致するように修正します。

ステップ3:必要なデータ項目を選択・変換する

連携に必要な項目だけを残し、不要な項目は削除します。また、日付形式や数値形式、単位などを分析しやすいように統一します。

ステップ4:各データセットの前処理を完了させる

上記のステップで、連携の「鍵」となるキー項目を中心に前処理を進めてきましたが、欠損値処理や重複削除など、他の前処理も並行して行い、各データセットをきれいな状態にします。

ステップ5:キー項目を元にデータセットを結合する

前処理が完了し、キー項目が完全に一致するようになったら、いよいよデータセットを結合します。

手軽な前処理ツールとしてのPower Query(Excel/Power BI)

Excelの機能であるPower Queryは、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)で直感的にデータの前処理や整形を行うことができる非常に強力なツールです。Excel 2016以降では標準機能として搭載されています(バージョンによってはアドオン)。

Power BI DesktopもPower Queryエンジンを内蔵しており、さらに高度なデータ変換やモデリングが可能です。まずはExcelのPower Queryから試してみることをお勧めします。

事例に学ぶ前処理の重要性

ある自治体では、防災避難所の位置情報オープンデータと、高齢者・障がい者人口統計オープンデータを組み合わせて、避難行動要支援者の避難所へのアクセス性を分析しようとしました。しかし、避難所データには住所の表記ゆれが多く、統計データとの正確な紐付けが困難でした。

そこで、まず避難所データの住所表記をGISデータやマスタデータと照合しながら正規化する徹底的な前処理を行いました。この結果、統計データとの正確な結合が可能となり、地域の特性に応じた避難支援計画策定に役立てることができました。

この事例のように、一見地味な前処理こそが、データ活用による地域課題解決の成否を分ける鍵となります。

まとめ

オープンデータを地域課題解決に活用し、特に複数のデータセットを連携させてより多角的な分析を行うためには、データ前処理(クリーニング)が不可欠です。データ形式の多様性、表記の不統一、欠損値など、オープンデータ特有の課題を理解し、一つ一つ丁寧に対処していく必要があります。

Excelの基本機能やPower Queryなどの手軽なツールを活用することで、前処理の効率を大幅に向上させることが可能です。分析ツールを使いこなす以前に、まず「使えるデータ」を準備することに注力してください。

データ前処理は決して容易な作業ではありませんが、質の高いデータがあってこそ、信頼できる分析結果が得られ、それが真の地域課題解決へとつながります。本記事が、皆様のオープンデータ活用における前処理の実践の一助となれば幸いです。