地域課題解決を加速:オープンデータ活用における継続的改善(PDCA)の実践
はじめに:単発で終わらないデータ活用を目指して
日々の業務で行政データに触れ、地域課題解決のためのデータ活用に関心をお持ちのことと思います。オープンデータが登場し、以前に比べて多様なデータにアクセスできるようになりました。特定の課題に対してデータを収集し、分析し、報告書を作成するといった一連の作業経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
一方で、分析結果が一度の取り組みで終わってしまったり、施策の効果を継続的に追跡・改善していくサイクルに乗せられなかったりといった課題を感じることもあるかもしれません。地域課題は常に変化しており、データ活用も一度きりではなく、継続的に取り組むことで真価を発揮します。
本記事では、オープンデータを地域課題解決に継続的に活用し、その効果を着実に高めていくための「PDCAサイクル」の考え方と、各ステップにおける実践的なヒントをご紹介します。
なぜオープンデータ活用にPDCAが必要なのか
PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の頭文字を取ったもので、業務プロセスを継続的に改善するためのフレームワークです。このPDCAサイクルをオープンデータ活用に適用することには、以下のようなメリットがあります。
- 変化への対応力向上: 地域課題や社会状況は常に変化します。定期的にデータを確認し、分析結果を更新することで、最新の状況に基づいた対応が可能になります。
- 施策の精度向上: 実施した施策が期待通りの効果を上げているかをデータで評価し、必要に応じて改善することで、より効果的な施策立案・実行が可能になります。
- リソースの最適化: どのようなデータ分析や施策が有効かをPDCAを通じて学ぶことで、限られた時間や予算といったリソースをより効果的に配分できるようになります。
- 知識・ノウハウの蓄積: データ収集方法、分析手法、可視化の工夫など、一連のプロセスを回す中で得られた知見が組織内に蓄積され、次の取り組みに活かすことができます。
オープンデータは公共性の高いデータであり、地域全体の状況把握や多様な視点からの分析に適しています。この特性を活かし、継続的な改善サイクルに組み込むことで、地域課題解決に向けた取り組みをより盤石なものにすることができます。
オープンデータ活用におけるPDCAサイクルの実践ステップ
それでは、オープンデータ活用におけるPDCAサイクルの各ステップを具体的に見ていきましょう。
1. Plan(計画):課題設定と目標、必要なデータの明確化
データ活用の最初のステップは、解決したい「地域課題」を明確にすることです。漠然とした課題ではなく、「〇〇地区の高齢者の健康寿命を〇年までに△歳まで延伸する」「子育て世帯の転出数を年間〇%削減する」のように、具体的で測定可能な目標を設定します。
次に、その課題解決や目標達成のためにどのような情報が必要か、どのようなデータがあれば現状分析や効果測定ができるかを考えます。ここでオープンデータが重要な役割を果たします。
- 必要な情報の洗い出し: 課題に関連する人口統計、医療・福祉データ、交通データ、経済データ、環境データなど、必要となりそうなデータの種類をリストアップします。
- オープンデータの探索: 政府、都道府県、市区町村のオープンデータポータルサイトや、統計センター、各府省庁のサイトなどを横断的に検索し、リストアップしたデータが存在するか確認します。必要であれば、民間のデータプロバイダーや研究機関が公開しているデータも検討します。複数のデータソースから、網羅的に情報を収集しようとする姿勢が重要です。
- データの評価: 見つけたオープンデータが、設定した課題や目標の分析に適しているか評価します。データの公開範囲(地域、年次)、粒度、更新頻度、提供形式、そして最も重要な「データ品質」を確認します。情報源が信頼できるか、欠損値や不整合がないかなどを事前に確認することで、後の分析の信頼性が高まります。
- 分析計画の策定: 収集したデータを使って、どのような分析(傾向分析、比較分析、相関分析など)を行うか、どのようなアウトプット(レポート、グラフ、マップなど)を作成するかを具体的に計画します。この段階で、必要なツール(Excel, BIツール, GISなど)や、複数データを連携させるための手法(共通コードでの結合など)についても検討します。
2. Do(実行):データ収集、前処理、分析、可視化
計画に基づき、実際に手を動かすステップです。
- データ収集・取得: 特定したオープンデータを、カタログサイトからダウンロードしたり、API経由で取得したりします。提供形式(CSV, JSON, Shapefileなど)に応じて適切な方法でデータを取得します。
- データ前処理: 取得したデータは、そのままでは分析に使えないことがほとんどです。欠損値の処理、表記ゆれの統一、データ形式の変換、不要な列の削除、そして複数のデータセットを組み合わせるための結合など、分析に適した形にデータを加工します。ExcelやAccessでもある程度の前処理は可能ですが、より複雑な処理や大量のデータを扱う場合は、BIツールのETL機能や専用のデータ前処理ツール、あるいはPythonなどのプログラミング言語の活用も検討できます。
- データ分析: 前処理済みのデータを用いて、計画した分析を実行します。Excelのピボットテーブルや関数、BIツールの分析機能などを活用します。地理的な要素を含むデータであれば、GISツールを用いた空間分析も有効です。ペルソナの方はExcelやAccessでの経験があるため、まずは馴染みのあるツールから始めるのが良いでしょう。徐々にBIツールの基本的な使い方を学ぶことで、より高度な分析や、複数のデータを連携させたクロス集計などが容易になります。
- 可視化: 分析結果を分かりやすく「見える化」します。グラフ、表、マップなど、伝えたいメッセージや分析内容に応じて最適な表現方法を選びます。読者ペルソナが「分析結果の分かりやすい可視化」に課題を感じているように、分析そのものと同じくらい、その結果をどう伝えるかは重要です。BIツールを使えば、インタラクティブなダッシュボードを作成するなど、より表現力豊かな可視化が可能です。可視化は、次の「Check」ステップで分析結果を評価し、関係者と共有する際に非常に役立ちます。
3. Check(評価):結果の検証と課題の抽出
Doステップで得られた分析結果や可視化された情報を評価し、当初の計画や目標に対してどのような状況にあるかを確認します。
- 分析結果の評価: 設定した仮説は検証できたか、新たな発見はあったかを確認します。分析に用いたデータが十分だったか、前処理や分析手法は適切だったかといった、分析プロセス自体も振り返ります。
- 目標達成度の評価: 設定した数値目標に対して、現在の状況はどうなっているかを測定します。オープンデータに含まれる指標や、そこから計算できる指標を用いて客観的に評価します。
- 課題と示唆の抽出: 分析結果から読み取れる地域課題の現状や、その背景にある可能性のある要因を深掘りします。また、現状を改善するためにどのような示唆が得られるかを検討します。例えば、「特定地区で高齢者の受診率が低い傾向が見られる。その背景には交通の便や情報伝達手段に課題があるのではないか?」といった具体的な課題と仮説を抽出します。
4. Act(改善):アクションへの反映と次期計画
Checkステップで得られた評価結果や示唆を基に、具体的な改善アクションを検討し、実行に移します。そして、次のPDCAサイクルに向けた計画を立てます。
- 改善アクションの検討: 分析結果から得られた示唆に基づき、具体的な施策の改善案や、新たな取り組みを検討します。例えば、受診率が低い地区に対して、巡回バスのルート見直しや、地域住民向けの健康セミナー開催を検討するといった具合です。
- 計画への反映: 検討した改善アクションを実行に移すための具体的な計画を立てます。また、今回のデータ活用プロセスで見つかった課題(例: 特定のデータが不足している、分析に時間がかかりすぎるなど)を次のPlanステップに反映させます。必要なオープンデータがない場合は、他のデータソースを探したり、場合によっては自治体としてデータの公開を検討したりすることも含まれます。
- 組織内での共有: 分析結果、評価、そして次のアクション計画を関係部署や意思決定者と共有します。分かりやすいレポートや可視化ツールを用いた説明は、関係者の理解を深め、協力を得るために不可欠です。分析結果を「伝わる」形に加工するスキルがここで活きてきます。
他自治体の事例から学ぶPDCAの実践
多くの自治体でオープンデータ活用が進められています。例えば、ある自治体では、人口データや公共交通機関の利用状況データを継続的に分析し、高齢化が進む地域の公共交通ネットワーク最適化に活かしています。計画(Plan)段階で利用者のニーズと既存ルートの課題をデータから特定し、実証運行(Do)を行い、利用状況や住民の声(Check)を収集・分析して、運行ルートやダイヤを継続的に改善(Act)するといったサイクルを回しています。
また別の自治体では、観光関連のオープンデータ(イベント情報、宿泊施設情報、SNS上のクチコミなど)を定期的に収集・分析し、観光施策の効果測定や、新たな観光資源の発掘に活用しています。これらの事例から、データに基づいた継続的な検証と改善が、地域課題解決においていかに重要であるかが分かります。
まとめ:オープンデータ活用を地域改善のエンジンに
オープンデータ活用は、単発のプロジェクトで終わらせるのではなく、地域課題解決のための継続的なプロセスとして捉えることが重要です。今回ご紹介したPDCAサイクルは、そのための有効なフレームワークとなります。
まずは小さな課題から、手持ちのデータと使い慣れたツール(Excelなど)でPDCAサイクルを回してみてください。分析結果の可視化に工夫を凝らしたり、少しずつ異なるデータソースを組み合わせたりと、ステップを踏むごとに新たな発見や学びがあるはずです。
データに基づいた計画、実行、評価、改善のサイクルを定着させることで、オープンデータは地域課題解決を持続的に推進する強力なエンジンとなるでしょう。この情報が、皆さまのオープンデータ活用実践の一助となれば幸いです。