オープンデータ活用ガイドブック

地域課題解決のためのデータソース特定と収集実践:オープンデータ、内部データ、その他の活用法

Tags: オープンデータ, データ収集, データソース, 内部データ, 地域課題解決, データ活用

地域課題解決の第一歩:必要なデータを見つけ、集めるには

地域課題解決に取り組む際、どのようなデータが必要で、それがどこにあり、どのように入手できるのかという疑問を持つ方は多いでしょう。オープンデータだけでは十分な情報が得られない場合や、自治体内部に存在する様々なデータをどう活用すれば良いか分からないといった声も聞かれます。

データ分析や可視化の前に、まず「適切なデータソースを特定し、確実に入手する」という重要なステップがあります。このステップが適切に行われなければ、その後の分析も課題解決も困難になります。

この記事では、地域課題解決に必要な様々なデータソースの種類、それぞれの探し方・集め方、そして収集における注意点について、実践的な視点から解説します。

なぜデータソースの特定と収集が重要なのか

地域が抱える課題は多角的であり、単一のデータソースだけでは全体像を把握したり、原因を特定したりすることは難しいのが現状です。例えば、高齢者の孤立という課題を考える場合、人口統計データだけでなく、地域の公共交通網データ、福祉施設利用状況データ、ボランティア活動に関するデータ、さらには地域住民へのアンケート結果など、様々な視点の情報が必要になります。

適切なデータソースを特定し、必要なデータを網羅的に収集することで、課題の背景にある要因を深く理解し、より効果的な施策を検討するための根拠を得ることができます。データの収集は、まさに地域課題解決に向けた取り組みの土台作りと言えるでしょう。

地域課題解決に必要なデータソースの種類

地域課題解決に活用できるデータソースは多岐にわたります。主に以下の種類が挙げられます。

1. オープンデータ

国や自治体、研究機関などが機械判読可能な形式で公開しているデータです。地域課題解決の強力な足がかりとなります。

2. 自治体内部データ

自治体内部で業務を通じて蓄積されている様々なデータです。住民情報、税情報、福祉関連情報、施設利用情報、公共事業に関する情報など、地域の実態を詳細に反映しています。

3. その他のデータソース

オープンデータや自治体内部データ以外にも、地域課題解決に役立つデータは存在します。

データソースの特定と収集の実践ステップ

地域課題解決に向けたデータソースの特定と収集は、以下のステップで進めることができます。

ステップ1:課題の明確化と必要なデータの定義

取り組むべき地域課題を具体的に特定し、その課題を理解・分析するためにどのような種類のデータが必要かを定義します。例えば、「子育て世代の転出抑制」という課題であれば、子育て関連サービスの利用状況、待機児童数、住環境に関する情報、近隣自治体との比較データ、子育て世代へのニーズ調査結果などが必要になると定義します。

ステップ2:既存データの棚卸し

まず、自治体内部にすでに存在しているデータ、そして公開されているオープンデータをリストアップします。どのようなデータが、どの部署で、どのような形式で管理されているかを確認します。オープンデータについては、国のポータルサイトや自自治体のサイトを網羅的に確認します。

ステップ3:不足データの洗い出しと探索

ステップ2で洗い出したデータだけでは不十分な場合、不足しているデータを特定し、新たなデータソースを探索します。他の自治体がどのようなデータを公開・活用しているか調査したり、国の統計データや学術研究で利用されているデータセットなどを探したりします。民間データや調査データの活用も視野に入れます。

ステップ4:データ利用可能性と制限の確認

見つけたデータソースが、実際に利用可能か、利用にあたってどのような制限があるかを確認します。オープンデータの場合は利用規約を詳細に確認し、営利目的での利用や改変の可否などを把握します。内部データや民間データの場合は、提供可否、利用目的の制限、費用、契約条件などを確認します。特に、個人情報が含まれるデータは、プライバシー保護のための措置(匿名化など)が可能か、どのような手順が必要かを確認することが極めて重要です。

ステップ5:データ収集の実践

利用可能なデータソースが特定できたら、実際にデータを収集します。

収集における課題と解決策

データ収集の過程ではいくつかの課題に直面することがあります。

事例紹介

事例1:観光振興における多角的なデータ活用(A市)

A市では、観光客数の伸び悩みという課題に対し、オープンデータ(観光施設データ、公共交通データ)、自治体内部データ(イベント参加者データ、施設利用状況)、さらに商用データ(地域への来訪者の属性・移動データ)を組み合わせて分析を行いました。これにより、特定の施設へのアクセスが悪いために立ち寄りが少ないこと、特定のイベント開催時以外は客足が伸びないこと、来訪者の主な移動ルートと市の推奨ルートに乖離があることなどが明らかになりました。これらの分析結果に基づき、交通アクセスの改善、イベントと連動した周辺施設の情報発信強化、推奨ルートの見直しといった施策を立案・実行し、一定の成果を上げています。

事例2:高齢者福祉サービスの最適化(B町)

B町では、高齢化率の上昇に伴い、福祉サービスの提供状況と実際のニーズとの間にミスマッチが生じている可能性が指摘されていました。そこで、オープンデータ(地域別の高齢者人口、公共交通の運行状況)、自治体内部データ(介護保険利用状況、高齢者向け施設の利用状況、地域包括支援センターへの相談件数)、および地域住民へのアンケート調査結果を収集・分析しました。その結果、交通の便が悪い地域でサービス利用が低い傾向にあること、特定のサービスへの相談が急増していることなどが判明しました。この分析に基づき、オンデマンド送迎サービスの試験導入や、相談件数が多いサービスに関する情報提供の強化などを行い、サービスの利用促進と効率化につなげました。

これらの事例からも分かるように、複数のデータソースを組み合わせることで、課題に対するより深い洞察が得られ、効果的な施策の立案に繋がります。

まとめ

地域課題解決のためのデータ活用は、まず必要なデータを「見つけ」「集める」ことから始まります。オープンデータ、自治体内部データ、そしてその他の様々なデータソースの特性を理解し、課題に応じて適切なデータを選択・収集することが成功の鍵となります。

データ収集の過程では、データが見つかりにくい、形式が統一されていない、プライバシーの懸念があるといった課題に直面することもありますが、適切なステップを踏み、関係者と連携することでこれらの課題を乗り越えることが可能です。

収集したデータは、次に「前処理」「分析」「可視化」といったステップを経て、地域課題解決に向けた具体的なアクションへと繋がっていきます。まずは、身近にあるデータソースからでも構いませんので、一歩ずつデータ収集の実践を始めてみることをお勧めします。